健康診断前に健康的な食生活を送ることに意味はあるのか?
私が臨床で患者さんを見ていた頃に,健康診断の前に1ヶ月程健康的な生活を送って「異常なし」の結果に満足されている方をよく見ました.今回は健康診断の意義とその関連した話題について書きたいと思います.
一般論として
健康診断の目的は,病気を早期診断・早期治療を行い病気の進行を抑えることが目的です.各検査項目により,見つけようとしている病気は違いますが,一番多く健診で引っかかる病気は生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)です.
今話題のメタボリック症候群も生活習慣病の類です.
健康診断では,この生活習慣病を見つけることが一つの大きな目的となっています.
生活習慣病と言われる糖尿病・高血圧・脂質異常症は,極端なものでなければ本人に症状はありません.では,どうして生活習慣病を見つけ指導・治療することが重要なんでしょうか? ...生活習慣病を治療する究極的な目的は,血管の老化(動脈硬化)を防ぐことです.
血管の老化(動脈硬化)って?
人間として生まれた以上,血管の老化は必然でどうしても避けられません.人間は癌・感染症などで生き延びても,最終的に血管の老化により死んでしまいます.
血管の老化は,最終的には心筋梗塞・脳梗塞・老衰といった症状となって現れます.
また,太古の昔から不老不死となることを夢見て,その秘薬を捜し求めていますが,未だ誰もその方法は見出せません.血管の老化は人間皆に平等に与えられた宿命です.
血管を水道管に例えると..
人間の血管を水道管に置き換えて考えて見ましょう.人間の体に埋め込まれた水道管は非常に優れ物で,あんなに細い管に血液のようなドロドロしたものが流れていても上手に使うと80年以上も持つのです.ただきれいな水を流していても水垢がつくように,どんなに上手に使っても水道管は傷んでいきます(老化).
ただこの水道管も使い方があまりに悪いと,40-50年で壊れてきます.汚い水を流していると,すぐ目詰まりを起こします.高い圧をかけて使っていると,破裂したりするわけです.また水道管(血管)は実際にトラブルが起きる(破裂・詰まる)まで何の症状を出さないと言う特徴があります.
この汚い水かどうかを調べるのが血液検査であり,高い圧かどうかを調べるのが血圧測定なわけです.高い圧というのはすぐ高血圧と理解いただけると思いますが,汚い水とはどんな状況でしょうか?
「汚い水」
この水道管に目詰まりを起こしやすい汚い水を流している人というのは,高脂血症・喫煙者・肥満者・糖尿病がある方です.自分のお腹の周りの脂肪を掴んでみて下さい.この脂肪はどこからどうやってやって来たのでしょうか? それは食事からですね.食べた食事は消化管で吸収され,血液を介してお腹のまわりに脂肪となってつくわけです.その脂肪は少なからず,途中通って来た血管に沈着して動脈硬化を進展させるわけです.
脳梗塞・脳出血を起こして,よく聞く言葉
私が臨床をして脳梗塞の患者さんを診ていた際によく聞いた言葉があります.
実際の患者さんの話をしてみましょう.脳梗塞・脳出血ではいつもと変わりなく動いていた体の一部がある日突然動かなくなり,本人・家族はビックリして救急車で病院にやって来ます.診察すると明らかに脳の血管の病気です.脳梗塞もしくは脳出血が疑われると話すと,大体の本人or家族は「今まで大きな病気をしたことがないのに...どうしてこんなことが起こるんだ?」と行き場のない怒りを抱えて仰天されます.
そしてよくよく話を聞いていくと,糖尿病・高血圧・高脂血症の既往があります.医師の立場からは,血管系の病気を起こす明らかなハイリスクなんですが,本人・家族には病気という自覚がありません.入院されてから,どうしてこの病気が起きるのかを説明して,生活習慣の改善が必要と痛切に自覚されると,それまで止められなかったタバコを止めて体重を減量されます.さすがに脳梗塞を起こしてタバコを続けている方はほとんどいないです.涙ぐましい努力で,禁煙・減量をされるのですが,動かなくなった体は残念ながら動かないままです.それは血管の老化は一方通行で,若返りできないためです.脳梗塞を起こした後に,健康的な生活を送っても,やはり起こしてない人よりは,再発のリスクが高く常に又発症する心配をしなければなりません.
結局は症状が出る前,すなわち血管が老化(動脈硬化)する前から,生活習慣を改善するのが一番賢明な方法です.
頭の体操クイズ
耳の痛い話が続きましたので、ここで小休憩しましょう。
簡単な頭の体操クイズです。
ここに仮想の商品として、これを使ってあなたの寿命と家族の寿命を縮めることができます。日本円で一個200-300円で売りましょう。
さあ、この商品を皆さんは買いますか?買う人をどう思われますか?
殺戮兵器として売ればいいかも知れませんが、あまりに執念深くゆっくり効くために兵器としては売れません。
実はこれは現実に存在する商品です。ついでに買うときには税金がかかります。
世界でよく売れています。多分、トヨタさんの新車販売台数より多いと思います。
なぜ普通に考えると皆買わないようなものが、こんなに売れているのか?
よっぽどマーケティングがうまいのでしょうか?
うすうす気付いたかもしれませんが,この商品とは「タバコ」です.どうしてタバコの話をしたかというと,前述のようにタバコは血管の老化を早める因子として重要なんですね.他にもありとあらゆる害があります.
タバコは肺癌を連想すると思いますが,実際は血管の病気などの癌以外の病気への影響が多いとされています.
虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症),脳梗塞
クモ膜下出血,喉頭癌,食道癌,口腔・咽頭癌,肝臓癌,肺気腫,肺癌,胃癌,胃潰瘍,膀胱癌,膵臓癌
これらはタバコによってリスクが上がる病気です.まさに「タバコは百害あって一利なし」です.
イギリス(?)の疫学研究で発表されているそうなのですが,
30歳前後で禁煙、約10年寿命延長
40歳前後で禁煙、約 9年寿命延長
50歳前後で禁煙、約 6年寿命延長
60歳前後で禁煙、約 3年寿命延長
...と言われています.
まとめ
健康診断を受けて,高血圧・高脂血症になりかけているだけで異常無しと言われて安心しないで下さい.
水道管に例えると血液検査は水質検査をしています。そのときだけ、健康的な食事をして結果が良くても、水道管つまり血管が良くなっているわけではありません。
血管の老化は一方通行で,戻りません.若いときからの生活習慣が全てです.
皆さんの血管の中は誰も見れません.いつどこで心筋梗塞・脳梗塞・脳出血が起きるかは誰にもわかりませんが,何らかのリスクがある人に起きてくることが殆どです.
上手に使うとは,管にきれいなものを流し,高い圧をかけないことです
またこの生活習慣病は,名前の通り生活習慣を変えることが根本治療であり,健康診断の前に1ヶ月程生活習慣を変えると正常化することも可能です.ただ,生活習慣は一年のうち1ヶ月だけ改善すれば良いわけではありません.
ついでの余談
この記事を読まれる方は本部の方で現場のMRの方はほとんど読まれないかと思いますが,salesアップを願って最後の余談を...
皆様が患者さんの立場で,生活習慣病の相談をしに行くとします.初対面の医師が,タバコのにおいをプンプンさせながら肥満で生活習慣病の説明されると説得力があるでしょうか? あまりそんな先生の話は信用できないと感じるのではないでしょうか?
逆の立場で,MRの方から医師が説明を受けるのも同じです.初対面であったMRの方が,タバコの匂いをプンプンさせて肥満で高脂血症と心筋梗塞のリスクを熱く語られても本当にこの人は病気のことを解っているのだろうかと医師は感じるかもしれません.
「先生,○×の販売をするのに,心筋梗塞のことをよく勉強して生活習慣病管理の大切さを学びました.そうして体重をX kg減量して,タバコも止めました...」そんなことを言われるMRの方は,先生に「こいつは本当に病気のことをわかっているんだ」と感じてもらえるかもしれません.しかも自分と家族の寿命を延ばして,余計な税金も払わず,salesアップで給料もアップ(?)...と良い事尽くめですね.
免責
いつもの如く,私の個人的記憶に頼って書いておりますので,誤植混在の可能性は御留意下さい.
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